探しやすい書籍検索とは
98P21008 荒井 信子
第1章
はじめに
レポートを書くために必要な参考文献を図書館の書籍検索を利用して探そうとした時に、すぐに見つけることができず不満を感じた。
図書館の検索は、あらかじめ著者名やタイトルがわかっている本が、有るか無いか、どこに置いてあるか、貸し出し状況を知るのには便利である。しかし、わからないこと、知りたいことなど「何かについて調べたい」など本の内容から探すのには向いていないと思われる。
そこで、内容から検索する時にもっと有効な検索方法というのはないのかと思った。そして、探しやすいとはどんな検索なのかをこれから考えていきたいと思う。
そのためにまずは、図書館の書籍検索の問題となっているところはどこなのか問題点を明確にしようと思う。そして、オンライン書店の書籍検索と比較したり、その他の検索なども参考にして探しやすい書籍検索とはどんなものか追求したい。
この論文は、第2章で図書館の検索の現状から問題点を明らかにし、第3章で図書館以外の検索(オンライン書店)との比較を提案、第4章で比較、第5章では前章で解決されなかった問題の改善案の検討、第6章さいごに、の順で構成されている。
第2章
図書館の書籍検索の現状と問題点
2‐1 検索の流れ
まず、現在の図書館の書籍検索とはどういったものなのだろうか。実際に検索の流れをみていこう。以下に検索の画面を提示しながらその流れを示していく。
@ 初期検索画面
検索条件の欄にキーワードを直接入力する。
A 検索結果画面
検索結果とその一覧が表示される。
B 内容画面
A検索結果画面で出力された本の1冊をクリックすると、その本の情報が表示される。
C 本棚へ
実際にその本を手にとってみて、中身を確認する。
この@〜Cの流れを図にあらわすと図1のようになる。
しかし、場合によっては前の画面に戻るなど繰り返されることがある。図2は、図1の流れに繰り返し1がおこる場合をくわえた流れ図である。図3は、図2の流れに繰り返し2がおこる場合をくわえた流れ図である。
繰り返し1
A検索結果画面で検索結果が多い場合、結果件数があまり多いと全部を一つ一つチェックするのが大変になり、もう少し結果を絞り込むために、もう一度@初期検索画面に戻ることになる。
繰り返し2
本棚へ行き、実際に本を手にとった時に、その本の中身が思っていたのと違っていた場合、もう一度最初から検索をしなおさなくてはならない。
このような繰り返しがおこるのは、判断のあるACの段階の前の画面に何か問題の原因があるのではないかと考え、その前画面である@Bの画面を詳しくみていくことにする。
2‐2 @初期検索画面
この画面では、検索対象をチェックし、検索条件を入力することで、検索が行われる。ここで問題となるのは、検索条件の欄に入力するキーワードである。
仮に、「ある学生がデータベースをこれから勉強したいと思い本を探している」とする。そこで、検索条件にキーワードとして「データベース」と入力した。その結果は、図書111件、雑誌3件、巻号タイトル35件となり、多くの結果が出力された。これを1件づつみていては時間がかかりすぎるので、あらたにキーワードを加えて検索を絞り込んでみようと思う。
まず、「初心者」というキーワードを加えてみた。その結果は、図書1件、雑誌0件、巻号タイトル0件であった。
しかし、ここであらたに加えたキーワードが「初心者」ではなかったらどうだろう。学生はこれから初めて勉強するのだから、「初心者」と入力したが、「入門」と入力したらどうだろうか。「入門」とキーワードを加えた結果は、図書12件、雑誌0件、巻号タイトル1件であった。
このように入力するキーワードによって結果件数は大きくわかることがわかる。そして、キーワードはその入力する人のセンスに大きく左右されるので、検索をした人全員が全員同じ本を手にすることができるとは限らず、入力センスが悪ければ最適だと思われる本を逃してしまったり、最悪1件も引っかからないことにもなる。
表1.キーワード結果件数
キーワード |
結果件数 |
||
図書 |
雑誌 |
巻号タイトル |
|
データベース |
111 |
3 |
35 |
データベース+初心者 |
1 |
0 |
0 |
データベース+入門 |
12 |
0 |
1 |
2‐3B内容画面
この画面では、その本の情報が表示される。
しかし、実際に本を手にとってから戻るという繰り返しからも、この画面の情報からではどんな本なのかイメージしにくくわかりにくいのではないかと考える。
イメージしにくい原因としてまず1つに、情報不足が挙げられる。この画面の情報には本の内容にふれた説明などがなく、内容をイメージさせる項目がタイトルくらいからしかないので、内容に関する情報が少なすぎるのではないかと感じた。
また、2つ目の原因として、一般にはわかりにくい表記が挙げられる。「分類」「番号」といった数字や記号は、一般にみただけではどのような意味を持つのかはわからないし、本の内容とは関係ないので画面を見づらくしている原因にもなっているのではないかと思う。
2‐4問題点
まず、@初期検索画面から、個人の入力センスに左右されるキーワード検索が問題であるといえる。入力センスに関係なく誰でも簡単に検索できるような方法はないかと思う。
また、B内容画面の問題点として、「情報不足」と「わかりにくい」といった2つの点が挙げられる。
これらの問題点が改善されれば、探しやすい書籍検索になるのではないかと思う。
第3章
提案にあたって
書籍の検索は図書館だけでなくオンライン書店でも行うことができる。
オンライン書店とは、実在の書店へ行かなくてもインターネットを通じて、欲しい本を探したり買ったりすることができる書店のことである。オンライン書店は図書館とは違い書籍の販売が目的なので、書店間の競争も激しくサービスレベルも向上しています。
このことからも、オンライン書店のほうが探しやすい書籍検索を追及しており優れているのではないかと考え、もしかしたら前章で挙げた問題点も改善されているのではないかと思う。そこで、両者を比較しながら、予想通りオンライン書店のほうが優れているのか、また、どんなふうに良くなっているのかを調べていき、探しやすい検索とはどんなものか考えていきたいと思う。
第4章
オンライン書店との比較
では、オンライン書店の書籍検索をみてみよう。
4‐1検索の流れ
@初期検索画面 → A検索結果画面
→B内容画面
検索の流れは、図書館と同じ流れである。
次にそれぞれの画面をみていこうと思う。
4‐2@初期検索画面
オンライン書店の検索では、版型や並べ替えの選択などができるようなちょっとした工夫がされているが、両者ともキーワード検索をつかっている。
4‐3A検索結果画面
図書館の画面では、タイトル、著者名、出版社、出版年月だけだったが、オンライン書店の画面では、版型、表紙画像、価格、発送状況などの項目が増えている。発送状況などは本の内容とは関係ないが、版型や表紙画像はその本をイメージする材料として役立つと思う。
また、両者の画面を比べてみると、画像や文字の色などでオンライン書店のほうが目を引き付けられる。
4‐4B内容画面
両者の内容画面の情報を表2のように、共通の項目、図書館のほうにだけあった項目、オンライン書店のほうにだけあった項目に分類した。
図書館のほうにだけあった項目をみると、一般にはわかりにくい表記のものであったり、あまり本の内容とは関係がなく役にたたなそうな項目が並んでいる。逆に、オンライン書店のほうにだけあった項目をみると、目次や内容説明、読者評価、関連本など、その本に関する詳細な内容がわかるような項目が多く増えている。
また、両者を視覚的にみても、図書館の内容画面はどの情報も同じような文字の大きさや色で情報が均一しているのに対して、オンライン書店の内容画面では文字の大きさや色で情報に強弱をつけみやすくされていると感じた。一般にわかりにくい表記がオンライン書店の画面では、なくなっていたり、あったとしても小さな文字であまり目立たないよう工夫されている。
表2.内容画面の項目
共通 |
図書館 |
オンライン書店 |
タイトル 著者名 出版社 出版年月 件名(ジャンル) 形態(サイズ・ページ) 番号(ISBN) シリーズ名 |
所蔵(所在、返却予定日など) 注記(参考文献、付属資料など) 標準言語 本文言語 分類 番号(NCID) 出版国 |
表紙画像 発送状況 価格 版型売上ランキング 目次 内容説明 読者評価 関連本 |
4‐5改善点
第2章で検索の問題点は、(1)入力センスに関係のない検索方法(2)内容画面の情報不足、わかりにくさの2点であった。
オンライン書店の比較の結果、(1)入力センスに関係のない検索方法というのは、どちらの検索もキーワード検索を使っており、入力センスに左右されない方法は改善されていなかった。
しかし、(2)内容画面では、本の内容にふれた項目を多く増やし情報不足を改善。また、その情報を文字の大きさや色、画像などをつかってビジュアル的にもみやすい画面に工夫されていた。内容画面についてはオンライン書店のほうが優れており、問題点も改善され良くなっているといえる。
第5章
改善案の検討
前章では、内容画面の問題点が解消されたが、(1)入力センスに関係のない検索方法の問題が改善されていない。そこで、その改善案として3つ、ジャンルわけ検索、教えて!gooの仕組み、キーワード検索の強化をそれぞれ検討していきたいと思う。
5‐1ジャンルわけ検索
「入力センスに関係しない」検索としてすでにジャンルわけされたものをクリックしていくタイプの検索がある。この検索だと直接入力することがないのでセンスに左右されることはない。
国立国会図書館Web−OPACではNDCによる分類と件名からと2種類の検索ができるようになっている。
NDC分類とは、「日本十進分類法」に従った分類で、階層的に検索を行う。検索ははじめ10種類のジャンルにわかれており、その後数回のクリックをへて結果が出される。
件名とは、その本が扱っているテーマを表した言葉のことである。国立国会図書館の検索は、文教大学湘南図書館の直接入力の他にも、五十音順に件名が選択クリックできるようになっている。
この2つの検索は、本の内容から検索し「入力センスに関係しない」という点では合格であるが、「探しやすいか」の観点に立つとそうではない。選択してクリックしていくのはいいが、自分の探そうとしている本がどのジャンルに属するかわからない場合困ってしまう。また、検索結果がかなり多いので、そのなかから絞り込むのが大変である。
そして、件名には
・ 人名件名、地名・団体名から検索できない
・ どのような件名が存在するかはあらかじめ決められている
・ すべての図書に件名がついているわけではない
など検索に引っかからない言葉や書籍がある。
オンライン書店でもジャンルわけ(ブラウズ)検索が使われていることがある。図書館と違うのは、分類が「日本十進分類法」ではなく利用者が使いやすいであろう分類(実際の書店の分類に似ている)にわかれている。図書館と違い選択クリックしやすいのは、分けられたジャンルにその後の細かい分類が表示されているので、自分が探そうとしているジャンルがわかりやすくなっている。オンライン書店では利用者が使いやすいように工夫されており図書館のものより優れているように感じた。
このジャンルわけ検索をオンライン書店のものよりもっと使いやすいものにするためには、どのようにジャンルをわければ探しやすいのかという本の分類も関係してくるようなので複雑な難しい問題であると思う。
5‐2教えて!gooの仕組み
ジャンルわけされた検索以外にいい方法はないだろうか。ズバリ最適な本をこれだと教えてくれるような検索はないだろうか。そこで目に付いたのが「教えて!goo」というサイトである。「教えて!goo」は、自分の知りたいことを直接質問し、回答をもらえるサービスである。
「教えて!goo」の使い方は次のようになっている。
様々な質問・回答が登録されているので、質問をする前にまずは過去の質問をキーワードで検索するかカテゴリーをたどって探してみる。過去の質問になかった場合は、質問を登録する。登録した質問は、その質問に答えることができる知識を持った人が回答してくれる。わからないことがある人は質問をし、(質問があった場合は自分も含めて)わかる人が答える。そして、質問者には回答が、回答者にはポイントが与えられる仕組みになっている。
この仕組みのよい点は、自分が探しているものの中でよいと思われる本をアドバイスしてもらえることである。
しかし、欠点としてすぐに回答が得られないことがある。過去の質問で解決する場合はいいのだが、新しく質問をした場合には回答が帰ってくるまで時間がかかり、すぐに本が欲しいときなど、急ぎのときにはあまり有効な手段とはいえない。
しかし、入力センスに関係なく的確に探している本がわかるという点では、いい仕組みであると思う。
このサイトを活性化させる要因としてポイントが重要になってくる。的確なアドバイスを早く、たくさん集めるには、多くの人の参加がなくてはならない。教えて!gooでは優良な回答をした人にはポイントが与えられるような仕組みになっているので、ポイントで参加を促し、また、優良な回答にポイントが与えられるので回答の質が良くなり信頼性もあがるなど、ポイントがサイトを活性化させている。図書館は、一般企業と違い学生から利潤を取ることがないので、情報提供を促すポイントをどうするかは考えなくてはならない。解決案の一つとしては、図書館のプロである司書の人に回答の支柱となってもらうことである。質問をしても回答が返ってこないのでは、質問した意味がなくサイトも活性化しなくなるので、まだ回答のない質問には必ず回答するようにする。それに司書の的確な回答なら、そのサイトの信頼性もあがり活性化につながる。
その他の案として、何学科の何年生がどういった目的で(何教科のレポートテーマなど)を記したり、カテゴリーを教科別などにわけるのは学生にとっては使いやすいかもしれない。しかし、その場合、毎年教科名や内容が変わったりすることがあるので注意がいる。
参加型のこのようなサイトは、人が集まり交流が活発であるなら可能性は無限であると思うので、この仕組みを元にもっともっと発展した検索もできるような気がする。
5‐3キーワード検索の強化
検索には主にキーワードとジャンルの2つがあるが、主に検索といえばキーワードがよく使われている。ほとんどの検索がキーワードならこの検索を教科しもっと使いやすいものにはできないだろうか。
キーワードを打ち込んだあとの絞込み検索でどんな言葉を入力するか悩むとこだか、その時に、最初のキーワードから連想される言葉や仕様用途をあらかじめいくつか提示すれば、次に何を入力するか悩まなくてもいいし、あまりに見当はずれなキーワードを入力することもない。
またいくつか提示した時に、これは違うといった否定の単語がはっきりしている場合には、Not検索があると便利である。絞り込む時にいらないものだけを排除できるので、的確に絞り込むことができ検索がうまくいくのでないかと思う。
5‐4考察
改善案を3つ検討してみたが、どれも良いところもあれば悪いところもあって十分に満足のいくものではなくなかなかこれが最高の検索であるとはいえないが、ジャンルわけ検索にしても、おしえて!gooの仕組みにしても、キーワード検索にしても、まだ改良の余地はあるのではないかと思った。
第6章
さいごに
探しやすい書籍検索とはどんなものかをこれまで考えてきた結果、はっきりといえることは、本の詳細な内容に関する多くの情報と人の目を引き付けるビジュアル的工夫の2点が挙げられる。そして、今後の課題として入力センスに関係しない使いやすい検索方法を提案したい。
さいごに、書籍検索の研究ということで、いろいろな図書館やオンライン書店、その他の検索を見てきた。そのなかで、書店だけの特徴や専門の検索など今まで知らなかった便利な検索も見つけることができた。また、図書館の検索に不満を感じたのがきっかけだったが、その図書館でも文献の探し方のガイダンスをしたり、新聞記事(朝日新聞全文記事データベース)や文献情報(MAGAZINEPLUS)のデータベースを使うことができるようになったりと、日々改善の努力をしていることを知った。
これからも利用者にとって使いやすい検索の発展を思う。
謝辞
卒業研究に取り組んだ1年間を振り返ると、テーマに悩み、データを集め、発表・論文書きに四苦八苦したことなどが思い出されます。研究の進みの遅い私でしたが、皆さんの叱咤激励でここまで書くことができ、大変感謝しております。お互いの研究に刺激されながら1年間一緒にがんばった4年生、発表会を手伝ってくれた3年生、そして、一番お世話になり助けていただいた根本先生、本当にありがとうございました。
参考文献
文教大学湘南図書館 http://www.bunkyo.ac.jp/faculty/lib/slib/index.htm
アマゾン・ジャパン http://www.amazon.co.jp/
国立国会図書館Web−OPAC http://webopac2.ndl.go.jp/
教えて!goo http://oshiete.goo.ne.jp/